郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる

日常を怯えて過ごす人間の雑記

夏の夜のブランコ

子どもの時分。

僕の頭には勉強と虐めへの諦観しかなかった。

成績は良いが、

体にはアザがあり、ひ弱な少年。

 

そんな時代。

 

夏休みの夜、

毎夜の様に、窓の外から僕を呼ぶ声。

マキちゃん。

 

僕とマキちゃんには、

共通点は皆無だし、

釣り合わない。

ただ、

いつも、僕の家の前に来て、

呼んできた。

そして、僕らは木材置き場の中にある小さなブランコに腰掛けて、

雑談をした。

 

マキちゃんは、何故僕になんかかまってくれるのだろうか?

自分の口臭は大丈夫かとか、

見つめすぎていないかとか、

頭の中では、アタフタしていた。

 

それから、僕らは何となく疎遠になり、

風の噂でマキちゃんがカフェのホールでバイトしていること。

また、「軽い女」

などというくだらない噂も聞いた。

 

それから、数十年。

もう互いに分からなくなったが、

僕は夏が近づく度に、

あの古いブランコを思い出す。

 

あれは、たしかに初恋だったのだと。

 

では、また。