子どもの時分。
僕の頭には勉強と虐めへの諦観しかなかった。
成績は良いが、
体にはアザがあり、ひ弱な少年。
そんな時代。
夏休みの夜、
毎夜の様に、窓の外から僕を呼ぶ声。
マキちゃん。
僕とマキちゃんには、
共通点は皆無だし、
釣り合わない。
ただ、
いつも、僕の家の前に来て、
呼んできた。
そして、僕らは木材置き場の中にある小さなブランコに腰掛けて、
雑談をした。
マキちゃんは、何故僕になんかかまってくれるのだろうか?
自分の口臭は大丈夫かとか、
見つめすぎていないかとか、
頭の中では、アタフタしていた。
それから、僕らは何となく疎遠になり、
風の噂でマキちゃんがカフェのホールでバイトしていること。
また、「軽い女」
などというくだらない噂も聞いた。
それから、数十年。
もう互いに分からなくなったが、
僕は夏が近づく度に、
あの古いブランコを思い出す。
あれは、たしかに初恋だったのだと。
では、また。