今から10年程前になる。
当時の職場にNさんという女性社員がいた。
Nさんは周りから、
お嬢様と呼ばれ、高嶺の花として君臨。
僕は、少しだけ言葉を交わした程度であったが、
たまに脳内に浮かぶNさんにウットリ。
ただ、
自分などには釣り合わないと感じ、
さして意識することは無くなっていった。
そんな中で月日は流れ、
近々僕はその職場を去ることになった。
或る日の仕事終わり。
あのNさんと話す機会があり、
僕は冗談などを交えて離職の挨拶をした。
すると、
Nさんの白い左手が僕の右手を掴み、
もう片方に持ったペンで、
『鬼』
1文字だけ。
確かにその1字を書いてニコリ。
僕は理解できないまま、
ドキドキしながら質問も出来ずにその場を去り、
それきり。
後に風の噂で、
Nさんが、同僚のクレジットカードを限度額まで引き出させて貢がせ、
辞職に追い込まれたと聞いた。
僕の右手には、
お嬢様の魅惑の呪印が施されたとすれば、
あの職場を去ったのは正解だったのかも知れない。
では、また。