郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる

日常を怯えて過ごす人間の雑記

お嬢様/SALVAGE

今から10年程前になる。

当時の職場にNさんという女性社員がいた。

Nさんは周りから、

お嬢様と呼ばれ、高嶺の花として君臨。

僕は、少しだけ言葉を交わした程度であったが、

たまに脳内に浮かぶNさんにウットリ。

ただ、

自分などには釣り合わないと感じ、

さして意識することは無くなっていった。

 

そんな中で月日は流れ、

近々僕はその職場を去ることになった。

 

或る日の仕事終わり。

あのNさんと話す機会があり、

僕は冗談などを交えて離職の挨拶をした。

すると、

Nさんの白い左手が僕の右手を掴み、

もう片方に持ったペンで、

『鬼』

1文字だけ。

確かにその1字を書いてニコリ。

 

僕は理解できないまま、

ドキドキしながら質問も出来ずにその場を去り、

それきり。

 

後に風の噂で、

Nさんが、同僚のクレジットカードを限度額まで引き出させて貢がせ、

辞職に追い込まれたと聞いた。

 

僕の右手には、

お嬢様の魅惑の呪印が施されたとすれば、

あの職場を去ったのは正解だったのかも知れない。

 

では、また。